未来塾 第4期・最終発表会 [サレジオ学院中学校・高等学校] (2017.2)
2017年2月21日、サレジオ学院中学校・高等学校において第4期・未来塾〈最終発表会〉を実施しました。

2月21日、神奈川県の男子中高一貫校・サレジオ学院中学校・高等学校におきまして第4期未来塾の発表会が開催されました。

未来塾は1年間を通じて問題解決に関わる様々なアプローチ手法を学びながら、学校課題や地域課題、社会課題等を自らで設定し、解決に取り組むテラス独自の中高生向け・通年型プログラムです。

同校では近年、学校へ求められる教育が時代に合わせて変化してきていることを受け、それに応える形で2013年から未来塾の取り組みが始まりました。
https://telas.me/schools/salesio

学校では通常、問題は「与えられるもの」であるが、未来塾では問題そのものを探し、決定し、解決するまでを自らで行動しなければなりません。さらに重要であるのが「正解がない問題」に対していかにアプローチするか。どう手を付ければいいか。思考停止にならず、恐れず取り組むには?

今年は9月スタートと例年に比べ半分の期間でしたが授業回数やインプットボリュームは変わらず、全10回の最終回であるこの日、各チームには取り組んだ課題について最終発表をしてもらいました。

今期は全9チームが参加し、研究課題は次のとおりです。

  • 保育士の待遇改善提案 (高1)
  • 引きこもりからの脱出方法への提案 (中3)
  • 東南アジアにおける教育課題と解決案 (高1)
  • 現代社会におけるAI(人工知能)を取り巻く課題と対策 (中3)
  • ローカル路線廃止による影響と対策 (中3)
  • ベーシックインカム実現への提言 (高1)
  • 2020年東京オリンピックにおけるテロ対策 (中3)
  • 骨髄移植ドナー数増加策への提言 (高2)
  • 捨て猫/捨て犬に関する課題と提言 (高1)

中学3年生〜高校2年生までがバリエーションに富む発表を行いました。

同校における未来塾は「課外活動」扱いなので、普段の授業時間の中で作業することはできません。放課後には個々人の部活動もあります。

このようにただやればいいだけではなく、非常に限られた学校生活の時間を上手にやりくりし、成果を出すことをも求められます。

彼らにとって未来塾の活動は単なるチャレンジ以上に、あえて自らを難しい状況に飛び込む勇気を伴うものなのです。

今期の特徴として例年に比べ中学生の参加が増えました。これまでは主に高校生の参加者を中心に一部に中学生がいる程度の割合でしたが、約半数が中学生。

4期目となった未来塾ですが取り組みが始まった当初はほとんど認知されず、一部の勇気ある(笑)高校生がとりあえず参加してみる程度のものでした。しかし初年度の活動が認められ、翌年からは同校の学校説明会で受験生向けにご紹介いただけるようになったそうです。未来塾を知った上で入学した生徒たちが参加可能な学年(中学3年)になった……と私たちは考えています。

さて生徒たちの発表では今年もバリエーションある課題がたくさん提示されました。

〈保育士の待遇改善提案〉では保育士の数が足りていないとの問題提起です。しかし保育士の資格保有者は決して少なくない、つまり「資格を持つのに働いていない」。主に自らの子育てから復職する資格保有者が条件が悪さから保育士を選ばないというのです。このようなことから改善方法として「待遇を良くするのはどうか」と提案する内容です。

なかなか上手にまとめられた発表でした。納得感があり、仮設の筋もいいです。ここからさらに「では待遇を良くするためにどういった施策が考えられるか」まで言及できればなお良かったと思います。

〈東南アジアにおける教育課題と解決案〉は発表者がカンボジアへ行った際、実際に現地で感じた問題意識をテーマにしたものです。途上国での教育課題というと学校の不足をすぐに考えがちですがNGOや有志の活動により実のところ学校の数は足りている。その施設を支える人、つまり教師がいないことが本当の問題だ、と。

ところでカンボジア等の仏教国では寺院の僧侶が庶民に教えを説く役割を担っています。であるなら寺院に学校の機能を持たせれば解決できるのではないか、という提案でした。

リアルに現場を見てきたからこその説得力のある発表です。質疑応答では校長先生から「教育と宗教の分離」について鋭い質問がなされました。自らが神父でいらっしゃることから(サレジオ学院はカトリックです)ご自身が常に意識されていることでもあるそうです。

〈ベーシックインカム実現への提言〉の発表では過労死の増加を問題提起のきっかけに、残業を減らした上で減額された残業代を補う形のベーシックインカム、年代別に支給額を変動させるといった、理想形よりも実現性を重視した提案がなされました。さらにその財源や、収入のために残業をしているとは限らない(定時で終えられないほどの仕事量が原因)といった視点からの洞察があればより精度の高い提案になったはずですが、限られた時間の中でまとめたと考えればよくやった!と思えます。

〈引きこもりからの脱出方法への提案〉は友人がそうだったという発表者自身の体験を元にしたものだそうです。質疑応答では興味深い一幕がありました。

「そもそも引きこもりは解決すべきことなのか?」

という質問です。質問者の方は決して引きこもりを肯定していいと考え、そう発言したのではないはずです。それはまるで「引きこもりは悪」と決めつけてしまった発表に終始していたことへの警鐘と受け取れました。

問題や課題を考える際に必要なのは「なぜそれは解決すべきことなのか(=理想形とのギャップがある)」を説明できるようにすること。なぜならそれがなければ問題意識を他者と共有できないからです。多くの人々の力を借りて実現するためにこのような意識の共有は欠かせません。

問題提起が独りよがりにならないように。
それでいて自分自身の強烈なメッセージを持つように。

相反するとも思えるこの二つをバランスよく持つこと。問題提起は難しく、容易なことではない。それに気付かされた質問でした。

とはいえ、10代の中高生たちがどのようなトピックに対して問題意識を持っているのか。こちらが与えた課題ではなく彼ら自身が自ら提示した9つのテーマは非常にリアルで私たちにとっても興味深いものでした。

中学生と比べると高校生はやはり一本筋が通った内容ではありましたが、次年度、次々年度と間違いなくさらに成長していくはずで、その様を見届けることができると思うと非常に楽しみです。

来年度はいよいよ5期目。また1年間よろしくお願いします。