原 真善美氏・特別授業“表現ワークショップ” [筑波大学附属坂戸高等学校] (2017.3)
2017年3月14日・15日、筑波大学附属坂戸高等学校(埼玉県坂戸市)においてテラス特別講師・原 真善美氏による“表現ワークショップ”を実施しました。

3月14日・15日、筑波大学附属坂戸高等学校におきまして特別講師・原 真善美さんによる〈表現ワークショップ〉を実施しました。

原さんは何十年と舞台の世界で活躍され、表現を知り尽くした方です。

DAY 1

この2日間は全5日間に渡るGLBCの前半パートにあたり、後半の本編でより良いパフォーマンスを引き出すためのウォーミングアップとの主旨で行われました。

学校からご要望を受けたテーマは表現力向上

早速この件を原さんにお伝えしたところこのような答えが返ってきました。

表現の技術を身につけるよりもまず、生徒たちに求めたいことがある。それは自分を知るということ。自分という身体を通じて誰かに何かを伝えるとき、素の自分がそもそも周囲へどういった印象を与えているのか。自分では普通にしているつもりでも、元気がない人、いつも怒ってる人、ヘラヘラしている人などに見えてしまうことがある。私は演出家としてそれを直せとは言わない。個性だと考える。ただし、普通にしていて元気なく見える人が自分を元気に見せようとするなら大げさくらいに明るく振る舞るまわないと意図した表現にならない、伝わらない。だから表現を学ぶなら自分を知ることから始めたい。

当日のワークショップでまず始められたのが自分の素の表情を鏡で見て知ること。鏡を見るのは誰もが普段の生活でしていますがほとんどの場合、自然と作った表情になります。無表情のまま見ることは滅多にありません。なぜなら無表情、無防備な表情は人に見せる顔ではないからです(笑)

自分の無表情をじっと観察し続けるのは特に思春期の生徒たちにとってはかなり痛みを伴う行為のはずです。でもあえてやってもらう。その顔が、自分が何かを伝える際のベースになるのです。

自分の無表情を知った次は顔全体の表情筋をほぐします。身体が固いと上手にダンスできないように、意図した表情を作るには顔を柔らかくしておきます。表情のダンスを踊らせましょう!

ここにきてやっと表情作りです。喜怒哀楽、意図した表情を作れているか。作った表情を他人に見てもらいちゃんとそう見えるかを教え合います。自分の得意な表情とそうではない表情が分かります。不得意な表情は意識して大げさに作らないと相手に伝わらない。

形だけの表情作りから、気持ちを乗せた感情表現へ。同じ「悲しい」であっても表情を作っただけのものと気持ちを乗せたものではガラリと変わることを体験します。

ここまでは表情を見てきました。次は身体全体の表現に移ります。

顔と同じように素の立ち姿であっても人それぞれが持つ癖によって様々な印象を周囲に与えてしまっていると各自に知ってもらいます。

そして身体の各部位を自在に動かせるよう脱力と緊張で徐々にほぐしていきます。

身体がほぐれたところでようやく全身を使ったアクティビティへと入ります。

「表現」の目的は伝え合うこと、つまりコミュニケーションにあります。

身体を使ったコミュニケーションを体験します。

普段のコミュニケーションはどうしても言葉に頼りがちになり、顔の表情や身体のアクションには気が回っていないかもしれません。

しかし人の印象の半分以上は見た目で決まると言われているように(メラビアンの法則)、視覚的なコミュニケーションを適当にしてしまっても良いことは一つもありません。これからのグローバル化された社会においては言葉が通じない場面が往々にしてあるでしょう。例えば路上のすれ違いざまのトラブルも、表情や仕草のちょっとしたコンタクト一つで解決できるかもしれない。

と言っても表現力はなにも大げさな意思表示をすればいいわけではなく、意図した通りに伝えることが大切なのです。また他人から発された表現を意図した通りに受け取る感受性も必要です。

1日目は自分を知るためのトレーニングを集中してやってもらいました。そのためにあえて言葉を使わないアクティビティで構成しています。

たくさん鍛えた身体の表情のみを使った表現に、明日はいよいよ言葉も加えてより日常的なコミュニケーションへとステップしていきます。

今回は先生も生徒と一緒にアクティビティを受けてくださっています。いい味出してます!

DAY 2

DAY 1で自分の表情の癖、身体の癖、動きの癖を知りました。

癖を知った上で、癖の上に表現を乗せながら考えや感情を正確に伝えることの大切さを学びました。

自分を知り、顔や身体が自由に動かせるようになったところでDAY 2では他者とコミュニケーションしていきます。

一見どんな効果があるか謎なアクティビティを次々と指示されます。

数人が輪になってスキップし、かと思えば2人が腕を組んでくるくる回り出す。

手を繋いで挨拶をする。

背を向けた人に向かって喋らず心の中で呼びかける。

はじめ生徒たちは本当に訳も分からず言われるままにやっていたかもしれません。

これらのアクティビティに共通する意図は
他者から発せられたメッセージを感じ取る
ということ。

他者から感情をもらう、と言ってもいいかもしれません。

ところでコミュニケーションのプロセスは、
1. メッセージを発し、
2. そのメッセージを受け取り、
3. メッセージから感情が引き起こされ、
4. その感情をメッセージに変えて発し返す
5. 2から繰り返し
このような流れで行われます。

メッセージを発するのはそれほど難しくはありません。相手に受け取られやすいメッセージにする難しさはありますが発するだけなら誰でもできます。

難しいのは受け取る方、感覚のアンテナを張って常に発信者のメッセージを感じ取らないとならないからです。

一方的に発し続けるだけではコミュニケーションが成立しない。当たり前のように思えることですが最後に行った即興劇のアクティビティで如実に現れます。

ストーリーを回そうと全員が喋り始め、独りよがりの演者だらけで聞き手がいないうるさいだけの瞬間を作ってしまうケースがよくありました。とてもコミュニケーションが取れた劇には見えない。前で見ていた生徒たちはとてもよく分かったのではないかと思います。

周囲の声や音をよく聞き
周囲の表情や動きをよく見る、
周囲の香りや触り心地を肌で感じる
周囲との距離感を感じる

これらすべてがコミュニケーションです。

例えば相手と距離を置いて怒るのと、目の前まで近づいて怒るのとでは全く異なる怒り方に見えます。された方は違いを感じるはずです。

その違いを感じ取れる敏感さや感覚の素直さを大切にしてほしい、との意図が込められた一連のアクティビティでした。

ワークショップが終わったらアンケートを書いてもらいますか?

と事前に原さんに尋ねたところ返答は「いらない」。

表現ワークショップなのに感想を筆記で求めるなんて野暮だ、顔を見れば大体分かるし。その代わり2日間で感じたことを最後にひとりひとり一瞬のポーズで表現してもらいましょう、と。

なるほど!!(笑)

で、本当にやってもらいました。
原さんの手の合図に合わせて色々な顔やポーズが次々と。

ワークショップの前に比べるとみんな見違えるほど動くようになりました。
この感覚を忘れずにあとの3日間、残りの高校生活、これからずっと、過ごせるよう心から願っています。

こういう終わり方もいいですね。
原さん本当にありがとうございます。